“玉よしの親子丼”を作ってみた!!『おせん』きくち正太
野郎の心意気。玉よしの味。。
今回は『おせん』第三巻の第十二話「卵と鶏と丼の粋な関係」から”玉よしの親子丼”を作ってみました。
この親子丼の最大の特徴は、卵に直接火を通すのではなく、ご飯や器の熱(余熱)で火を通すところにあります。
“玉よし”というのは、一升庵の仲居さんの一人である玉ちゃんの実家。戦前から続く下町の鳥料理屋さんです。第十二話は玉ちゃんのお父さんである三代目が突然亡くなり、玉ちゃんのお兄さんが急遽修業先から戻って四代目としてお店を継いで間もない時期のお話。
先代の味をしっかりと継いで、さらに自分の味も出していきたいと考えた四代目。自慢の鶏肉と卵、そして割り下を使った絶品の親子丼を出そうとした考案していた四代目でしたが…、親子丼は先代がお客に出すことをなぜか頑なに拒んでいた代物。しかし、そんな先代が常連客に唯の一度だけ出したことがあります。
先代の親子丼を食べたのは、常連客の一人である作家である川波周五郎です。
当時、書きかけの小説にどうしようもないほどに行き詰まっていた川波の足は自然と玉よしに向かいます。川波の様子をみた先代は一通りの酒の肴を準備した後、奥に姿を消します。意気消沈していた川波はそのことに気づきもしませんでしたが、半時ほどして先代が現れた際に持ってきたのが”玉よしの親子丼”。
その日は先代の倒れる前日だったそうです。
“泪が出るぜ 野郎の心意気にゃあよ”
“玉よしの親子丼”とは…
玉よしの四代目が試作品としておせんたちに親子丼を振舞っているのを見とがめた川波は自身もその親子丼を試食することに…。
四代目の作る親子丼はいわゆる従来通りの一般的な親子丼です。
しかし、川波は一口食べて”こんなもんは この店の味じゃねぇ”とその親子丼を否定し、さらにはもし店で出すようなら”のれんは掛け直してくれやァ”とまで言い置き店を後にします。もちろん、先述の”先代の心意気”を知っているからこその言動なわけですが…。
四代目は自信を持って出した親子丼なだけに川波の理不尽な言葉が許せず、先代の親子丼を再現するために試行錯誤をするわけです。まあ、川波も言葉足らずが過ぎますよね。そして、おせんの力もあって先代の親子丼を再現することに成功します。
おせんの言葉を借りると”玉よしの親子丼”とは、先代が”親子丼の本当の美味さ”をきちんと知っていたからこそ作れたものなのだそうです。曰く、親子丼というのはもともと出前用の料理だというお話。
丼物というのはできたてを食べるものではありません。おか持ちに入れて運び、届く頃にちょうど食べごろになるようにする。つまり、届く頃に”完成する”のがベストということですね。
運ぶ最中に冷たくならないように、持つと火傷するほどに熱々の容器に入れ、さらにその余熱で出前が届く頃に卵に火が通って調理が完成するようなコンセプトの親子丼です。
では、作ってみましょう!!
“玉よしの親子丼”の再現レシピ!!
玉よしの親子丼
Ingredients
- 1/2 枚 鶏もも肉 *地鶏
- 1 個 卵
- 1 人前 白ごはん *炊き立て
- 1/4 カップ 割り下 かえし+一番出し
Instructions
下準備
- 白ご飯を炊いておきます。丼が温まる頃に炊き上がるのが理想的ですので、うまいこと調整しましょう。
- 鍋にお湯を沸かして、丼を十分に温めます。丼を熱々にしておくことが”玉よしの親子丼”作りの要の一つですから、しっかりとお湯を煮立たせて熱々にしておきましょう。
本調理
- 割り下を中火にかけて一煮立ちさせ、そぎ切りにした鶏肉を加えます。鶏肉には火が八分ほど通れば大丈夫です。*自家製割り下は、一番出汁にかえし(醤油、砂糖、みりんを合わせて寝かせたもの)を加えて作ります。
- 鶏肉を煮ている間に丼の準備をします。温めた丼に炊きたての白ご飯をよそいます。*丼は水気をしっかりと拭い取ります。かなり熱くなっているので火傷しないように気をつけましょう。
- ここからはスピード勝負です。細切りにしたネギ(白髪ねぎ)を加えてさっとかき混ぜます。丼も白ご飯も冷めないうちに進めていきましょう。
- 続いて、卵を溶いて鍋に回し入れます。卵の溶き方は“溶き卵は卵のコシを折らねぇように 黄身と白身をさっと切り裂くかんじで”とのこと。
- 煮立ってきた瞬間に素早く丼の上に流し入れます。卵に火が通りすぎないように注意です。
“玉よしの親子丼”を作った感想
さて、出来上がりはこちら!!
と言うことで、今回は『おせん』第3巻第十二話「卵と鶏と丼の粋な関係」より、”玉よしの親子丼”を作ってみました。さて、どうなのでしょうか。個人的にはめちゃめちゃ美味しくて良い出来だとは思ったのですが、きくち先生の描写とは少々異なる気がしないでもないような…。
“まるでガラスが覆っているみたいだ…”
ですからね。きくち先生は本当に料理についてのコメントが秀逸で…。実際に作ってみたものよりも、作中の描写から想像していたものの方が数段美味しそうな気がしてしまうんですよね。この料理はまた挑戦してみようかな。