『ハウルの動く城』の “ハウルのベーコンエッグ”とは
“ハウルのベーコンエッグ”とはスタジオジブリによる映画作品『ハウルの動く城』に登場する料理(ジブリ飯)の一つです。
『ハウルの動く城』はイギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(Diana Wynne Jones)にいよる児童文学作品『Howl’s Moving Castle』を原作とした宮崎駿監督作品。主人公のソフィー・ハッターは義母の経営する「ハッター帽子店」でお針子として働く18歳の少女。妹に比べて地味な容姿の自分に劣等感を抱き、やや卑屈になりながらも日々真面目に仕事をこなすソフィーはある日、町で兵隊に絡まれたところを魔法使い”ハウル”に助けられ、束の間の非日常、空中散歩を楽しみます。しかし、ハウルと接触したことで、ソフィーは荒地の魔女の反感を買い、呪いで90歳の老女に変えられてしまうのでした…。
作品中では、他のジブリ作品同様食欲をそそる魅力的で美味しそうな「ジブリ飯」が複数登場しいます。中でも”ハウルのベーコンエッグ”は”卵の片手割り”に代表されるハウルの流れるような鮮やかな調理手際、厚切りのベーコンが脂をはじけて美味しそうに香ばしく焼かれる様、それらにカルシファーの愛らしさも相まって、特に人気の高い「ジブリ飯」のようです。
“ハウルのベーコンエッグ”は『ハウルの動く城』の物語前半、老婆に変えられたソフィーが”ハウルの動く城”に訪れた翌朝の場面で登場する料理です。
Diana Wynne Jonesによる原作が気になる方はこちら。
“ハウルのベーコンエッグ”はどういう料理か
“ハウルのベーコンエッグ”とは文字通りシンプルなベーコンエッグです。特別な食材が使われているわけでもなければ、特別な調理法を使うわけでもありません(火の悪魔の炎で調理する以外は…)。特別凝った料理ではないにもかかわらず、なぜだか何物にも代え難いほどに美味しそうに見えるのが「ジブリ飯」。不思議な魅力がありますね。
さて、”ハウルのベーコンエッグ”は上記の通り至って普通のシンプルなベーコンエッグということで、それ以上でもそれ以下でもないのですが、一応 料理について少しだけ言及しておきましょう。
このベーコンエッグの魅力の一つは間違いなくベーコンの分厚さ。普段スーパーマーケットなどで見かけるスライスのベーコンなどとは比較にならないほどに肉厚なベーコンを惜しげもなく使っています。カルシファーの強火で焼かれるベーコンから脂と肉汁が溢れ出し、弾ける様は垂涎三尺を禁じ得ません。
そして、もう一つの魅力は卵を割り入れる際のハウルの手際でしょう。卵をソフィーから受け取っては片手でフライパンに割り入れ、そのまま流れるような仕草で殻はカルシファーに与える。この場面を見て卵の片手割りを練習した人も多いはずです。
さて、では最後に原作由来の豆知識を一つ。ベーコンエッグといえばもちろんイギリス式朝食には欠かすことのできない料理です。このイギリスの代表的料理がなぜ登場するのか。もちろん原作者のDiana Wynne Jonesがイギリス出身ということもあるでしょうが、実は原作小説『Howl’s Moving Castle』においてハウルは正真正銘のイギリス人なのです。
ソフィー達が暮らす国、『ハウルの動く城』の舞台となるのは魔法の存在するインガリー国ですが、実はハウルだけはその世界の人間ではありません。つまり異世界(作中視点では)からの来訪者なのです。ハウルは正真正銘(?)この世界のイギリスはウェールズの出身で、彼の家族である姉夫婦らも元の世界にいます。
そういうわけでイギリス的朝食”ベーコンエッグ”が力を入れて描かれたのではないかと思われます(本当のところはわからないが)。そもそも舞台となるインガリー国も名前からして、別世界におけるイングランドといった立ち位置位なのだろうし、そもそもイギリスの児童文学なのだから、ハウルの国籍どうこう関係なく物語の世界観はイギリスなのでしょうがね。
『ハウルの動く城』の”ハウルのベーコンエッグ”を再現する。
“ハウルのベーコンエッグ”の再現で抑えるべきは…
さて、”ハウルのベーコンエッグ”は何を以て”ハウルのベーコンエッグ”であるといえば良いのだろうか。この「ジブリ飯」は上記の通りごくごく普通のベーコンエッグである。単純にベーコンを焼いて、目玉焼きを添えて…というだけでは、”それは、ただのベーコンエッグでしょ?どこが「ジブリ飯」なの?”なんて言われてしまうことは請け合いである。
もちろん、テーブルセットやカトラリーなどを作中のものに似せてみるというのも一つの手なのでしょうが、後先を考えると少しばかり現実的ではありません。それに、マルクルが運んできたようなエメンタールチーズの立派な塊だってなかなか手に入らないでしょう(エメンタールの本場スイスでもあれほどに”まさしく”な物は手に入れられませんでした)。
そうなると、シンプルにベーコンエッグだけで「ジブリ飯」らしさを引き出さなくてはならないことになるのですが…。では、”ハウルのベーコンエッグ”でおさえなくてはならない点はどこなのだろうか。
これはおそらく”ハウルのベーコンエッグ”と聞いて、誰もが頭の中に思い浮かべるであろう要素をおさえるということになるでしょう。
まず一つ絶対に譲れないのは、すでに上でも書いたように“極厚切りの大きなベーコンを使うこと”。
もう一つは、“目玉焼きは黄身がとろけるくらいの半熟であること”かな。
そして、その仕上がりは黄身には弾力があり、また黄身の表面はあまり白く覆われていてはいけない。いわゆる100点満点の目玉焼きである必要があります。
それぞれ個数については、作中では各人ベーコンが1枚に目玉焼きが2つとなっていますが…、現実問題として皿からはみ出すほどに大きなベーコンというのはそうそう見つからないので、ベーコンの枚数は見栄えを気にしつつ作りながら要検討としましょう。
そして、ベーコンエッグそのものにはさほど影響は与えない要素ではありますが、”ハウルのベーコンエッグ”と聞いて誰もが思い浮かべるであろうものがもう一つ。それは、ハウルの見事な調理手際、特に”卵の片手割り”でしょう。やはりこれを行わずに”ハウルのベーコンエッグ”は名乗れませんね。
そもそも「ジブリ飯」というものは、現実のものよりもなぜだか美味しそうに見えてしまう不思議なもの。おそらく、現実の料理の見た目から例えば”ハウルのベーコンエッグ”なら”分厚いベーコン”、”溢れ出る肉汁と脂”、”黄身が大ぶりで張りのある卵”、”オレンジ色”などなど、”美味しそう”な要素を抜き出し、さらにそれらが強調されて描かれているのでしょう。加えて登場人物たちの食べっぷりがまたこれでもかとばかりに美味しそうに食べるものだから、ただのベーコンエッグがまるでご馳走のようなのです。
ハウルのベーコンエッグを作る
今回使うベーコンはこちら。先日、とても良さそうなベーコンの塊が手に入ったので、これを好みの厚みに切って使っていきます。お皿のサイズとも相談した結果、やはり一枚では見栄えしないので、2枚使うことにします。
なかなか立派なもので脂の乗りも上々。これはきっと美味しいベーコンだ。
まずはこのベーコンをフライパンで焼いていきます。ベーコンを焼く際に考えねばならないことは、フライパンに油を敷くかどうかでしょう。脂が多すぎてはしつこいし、足りなすぎるとうまく焼けない。
今回はこれだけ脂の乗ったベーコンなので、油はなくても大丈夫だろうと、油なしで焼いていきます。ただし、経験上、ベーコンの油では目玉焼きはあまり綺麗に焼けないのでそのあたりは考える必要があります。また、火力が強すぎると、ベーコンの肉汁がフライパンの表面で焦げ付いてしまうので、その点も注意点ですね。フライパンに焦げが付いたら目玉焼きの白身が茶色く色づいてしまいます。
ベーコンから大量の脂が出てきましたが、脂(油)が多すぎても揚げ卵のようになって目玉焼きの仕上がりが綺麗にならないので、卵を入れる前に一度余計な脂を捨てます。ただし、油が少なすぎても卵がフライパンにくっついてしまいかねないので、適量サラダ油を加えてから卵を割り入れます。
もちろん卵は片手割り。
片手割りの感覚は人それぞれでしょうが、私の場合は卵を叩きつけてヒビを入れる際にある程度強めに叩きつけることを意識しています。卵の殻にしっかりと割れ目を入れると、それ以上余計な力を入れずとも、勝手に割れてくれます。あとは卵を握ったまま指を開くようにして、手のひらの中で卵の殻を押し広げれば意外にもほとんど力を入れなくとも殻は割れて、中身が出てくるのです。割った際に指を汚さないようにするのはもう少し練習が必要になりますけどね。
少量の水を加えて蓋をしする際も、表面が白くなりすぎないようにタイミングと水分量には気をつけましょう。目玉焼きをちょうど良い加減の半熟に仕上げるには、最後は火からおろして余熱で火を入れることを意識するとうまくいくことが多いかなと思います。
さて、卵が上手に焼きあがれば、冷めないうちにさらに盛り付け、紅茶を淹れます。
ベーコンエッグに合わせるのであれば、やはり茶葉はイングリッシュ・ブレックファストが良いだろうか。ただ、イングリッシュ・ブレックファストはそもそもミルクと合うようにブレンドされているので、単体で飲むのは少し濃いかもしれないな。
パンも自分で準備しても良かったのですが、作中でも自分で手焼きしたわけではないようだったので、今回は購入品で済ませます。
『ハウルの動く城』の”ハウルのベーコンエッグ”を再現した感想
繰り返し書いているように”ジブリ飯”とは言っても、至って普通のベーコンエッグなので、料理に関してはそれほど特別な感想は出てきません。ただ、思った以上に目玉焼きの君が綺麗に仕上がったのが嬉しかったですね。それから、今回はチーズの準備ができなかったのが残念でした。
それにしても不思議なもので、作ったものはあくまで普通のベーコンエッグなのだけれど、なんとなくでも”ジブリ飯”を意識して、その感じに合わせてみるとなんだか、また思うところが違うもの。
なんだか楽しく、気分が高揚するのは”ジブリ飯”の再現の醍醐味なのでしょうか。