『もののけ姫』のサンの干し肉
傷ついたアシタカにサンが”干し肉”を食べさせる。
ジブリ映画『もののけ姫』の中の印象的な一場面です。
実は個人的には『もののけ姫』初視聴時にはサンがアシタカに食べさせようとしていたものが木の皮か何かのようにも見え、幼心に少し不思議に思った記憶があります。後になってこれが干し肉だったことを知って、妙に納得したことも覚えています。
宮崎監督の絵コンテ(空中庭園)にはしっかりと”干し肉”であるということが書かれています。ちなみに、この絵コンテには細かい書き込みがあり、この”干し肉”の硬さはビーフジャーキーの3倍と設定されています。のちに、この裏設定を知り、サンが噛みちぎって口移しで与えていたことも腑に落ちました。

ところで、サンが持っていたこの干し肉。材料となった肉は何の肉なのでしょうか?
個人的には、もちろん牛肉だろうとなんの疑いもなく思っていたのですが、調べてみると豚肉(あるいは猪肉)だという意見もあるようです。
ですので、少しだけ考察をしてみることにしてみましょう。(不要と家ば不要なことですが、こういうところが楽しいものです。)
- 豚/猪肉の可能性は低い
→そもそも豚は猪が家畜化されたものです。なので、タタラ場で飼育されていない限り、サンが豚を手に入れる手段はないと考えられますが、タタラ場に豚が飼われている様子はありません。また、”このままではわしらはただの肉として 人間に狩られるようになるだろう”という乙事主の言葉からすると、まだ豚の家畜化は行われていない(史実上でも養豚、食肉が一般化し始めたのは江戸以降らしい)可能性が高いように思われます。また、乙事主と共闘している事から、サン達が猪を日常的に食べている可能性は低い(もちろん生存のための最低限なら自然の摂理として容認されるかもしれませんが)ように思われます。そもそもモロたち山犬と乙事主たち猪では縄張りが異なり、通常時はシシガミの森に猪はいないようです。 - 作画における肉の色と絵コンテ的な観点から
→作中で干し肉の色は赤茶~黒の色でしたが、基本的に豚肉や鶏肉は干しても、そのような色にはなりづらいと考えられます。特に豚肉は脂が多いので、もし豚肉の干し肉なら作画でももっと脂身が表現されそうなところ(猪肉はミオグロビンの関係で肉の赤みが濃いので、この可能性は排除できませんが)。ただ、絵コンテで“ビーフジャーキー”が比較対象に挙げられていることからも、牛肉の干し肉であるのが自然のように思われます。 - 牛肉である決め手…
→劇中でサンたちはタタラ場の人々の隊列を襲います。その後崖下に落ちた牛飼いをアシタカが救ったことで、サンとの初対面を果たすわけですが、その際にモロの子が牛を咥えて森へと帰っていく姿が描かれています。このことから、サン達がタタラ場の家畜の牛を度々襲って、食料としている可能性が高いことが推測されます。
作中から読み取れる情報が限られているので、あくまで決定打はなく推測の域にとどまりますが、個人的には牛肉の可能性が高いかなと思います。
“ジブリ飯”サンの干し肉の作り方
では、牛肉を使ってサンの干し肉を作っていきましょう。
作中でサンは自分が山犬であることを強く主張し、彼女もその育て親のモロも人間を憎んでいると発言しています。しかし、実はサンは人間としての文化や技能もある程度習得しており、それらをそれなりに使っていると思われる描写がなされています。

そもそもモロはサンを人として生きられるように育てていたと思われますので、サンに人間の道具の扱い方なども学ばせていたのはずです。実際、アシタカの破れた服を針と糸で繕っていますし、サンの服自体、彼女が自分自身で作ったものだと考えられます。
狩りをして獲物の生肉を食すであろう山犬と暮らしているサンが干し肉という加工食品を持っていたのも、モロがサンを人として生きさせていた一環でしょう。
流石に塩や胡椒などの香辛料まで使っていたかどうかはわかりませんが、干し肉を作る工程はある程度ちゃんとした工程に則っているものとして、今回は調理を進めていくことにします。
サンの干し肉の材料と必要な道具
ジブリ飯”サンの干し肉”を作るために用意した食材は以下の通りです。作中の雰囲気に近づけるべく味付けはなるべくシンプルにしています。
- 牛塊肉(赤身)
- 塩
- 黒胡椒
塩はさておき、胡椒は古代において貴重でしたのでサンが使っている可能性は極めて低いですが、作る以上は美味しく食べたいので…
必要な道具は
- 干し篭
- 燻製機
- 燻製チップ
- マッチ
です。
干し肉作りのポイント
美味しい干し肉を作る上で気をつけることは4点。
- 使用する肉は脂身を避け、赤身の部位を選ぶ。
- 肉は薄切りにして干す前に下味をつけておく。
- 燻製前に干してしっかりと水分を飛ばしておく。
- 燻製の際に十分と火を通す。
干し肉作り
それではサンの干し肉を作っていきます。
動画もありますのでよろしければ。
今回は冷凍庫に残っていた牛肉の塊肉を使って作っていくことにします。多分もも肉だったかな。
半解凍で切ると切りやすいと言いますが、今回は刺身包丁を使って薄切りにしていきました。厚みに関してはそれほど神経質になる必要はありませんが、分厚すぎると仕上がりが固くなりますし、薄すぎると物足りなくなるかもしれません。
乾燥させて厚みが薄まることを考えると5mm~1cmほどの範囲に収めておくと良いかもしれません。

続いて下味付け。塩胡椒をして、しっかりと肉全体に行き渡るように揉み合えます。
塩の量は肉の重量だけでなくスライスの厚みなどにもよるので一概に目安を出せませんが、今回は小さじ3程の量を使いました。仮に塩なしで干しても肉の旨みが凝縮して、しっかりと味わいが濃くなります。逆に塩が過ぎるとどうしようもできないので、もし塩梅がわからない場合は、控え目なところから始めて回数を重ねて好みの塩梅を探っていくと良いかと思います。
個人的には胡椒は気持ち多めにまぶすのが、あとあとの燻製香とも相性が良く好きです。

肉通しが重ならないように気をつけて、干し籠に広げ、数時間から半日ほど干して水分を飛ばします。
肉表面が濡れていると、燻製時に酸味が出る原因になります。表面の水分が問題ならキッチンペーパーなどで拭き取れば良いと思うかもしれませんが、燻製中に内側から表面に浮き出るような水分も酸味の原因になりますので、しっかり時間をかけて十分に水分を飛ばす必要があります。
下味として塩を振っているので、余計な水分が表面に出やすい状態になっており、風通しの良いところに数時間ほど置いておけばまず問題ないはず。カチカチになるまで完全に乾いてしまっても問題なので、まだしっとりと柔らかさの残っているくらいの程度で終えました。

十分に水分が抜ければすでに見た目はビーフジャーキーそのものですが、この時点ではまだ一切の加熱処理を行っていません。美味しそうな見た目に涎が出そうになりますが、あくまで生肉の水気を減らしただけのものなので、誘惑を断ち切ります。

さて、お肉がしっかりと干せたら、燻製機の準備をしていきます。燻製にも時間がかかるので、お肉を干す時間、燻製する時間をある程度見通して、お肉の準備ができ次第スムースに燻製に移れるように干し始めると良いですね。
ちなみに、うちの燻製機はアルコールコンロ付きの簡易燻製機です。専用の燻製機がない場合でもフライパンで簡易に代用が効きますので、お試しください。
今回は燻製チップにはヒッコリー使うことにしました。

燻製機の底にチップを散らし、金網の上に乾燥させた肉を重ならないように乗せていきます。今回は熱燻になりますので、温度管理にはさほど敏感になる必要はありません。
燻製時間は30~40分程、この燻製中にお肉に薫香をつけるとともに十分に火を入れていきます。

30分後。燻製機の蓋を開けると大量の燻煙が立ち上りました。燻製機の中ではしっかり燻煙が充満していたようです。
お肉もすっかり濃く色づいてとても良い感じです。十分熱さもあるので火もしっかり通っていると思って大丈夫そうです。

燻製機の火を消して、しばらく置いて熱をとったら完成です。
燻製後に保存性を高めるために、さらに干して乾燥させることもできますが、今回は食べやすいようにこのままで完成とします。

ビーフジャーキーの3倍の硬さを実現するには天気の良い日にもう一日ほど干す必要がありそうです。
干し肉を美味しく味わう
熱燻の干し肉といえば酒飲みにとっては最高の酒のつまみです。
せっかくなので、味見を兼ねて完成したばかりの干し肉を日本酒とともにいただきます。

今回、干し肉と一緒にいただいたのは米澤・小嶋総本店の純米大吟醸”洌”というお酒です。個人的な好みとしては、しっかりと冷やしていただいきます。
透明感のある澄んだ口触りに、切れ味のある辛口ながらフルーティーな香りと米の甘みを感じるしっかりとした旨みの味わい深いお酒で、干し肉とも非常に相性が良いように思います。
それでは、干し肉をいただきます。その出来栄えはというと…

ちょうどいい味加減に仕上がっていました。
塩を振って余分な水分を抜いてから燻製したことが良かったのか、雑味なくしっかりと旨みが凝縮されていてひと噛みごとに肉の旨みが口の中に広がります。ちなみに、十分に干せていたようで、燻製による酸味や舌へのピリ付きはありません。
少し多めにまぶした黒胡椒も良いアクセントになっています。この胡椒辛さが燻製の香ばしさと非常に良い相乗効果を生んでよりおいしさを引き出しますね。
干し肉(ビーフジャーキー)というと、醤油やお酒などに漬け込んで味をつけるものを多く見かけますが、塩と胡椒だけのシンプルな味付けでも十分に味が際立って美味しいです。
そして、干し肉と日本酒だけでは少し物足りない時に合わせたいのがこちら。

炊き立ての白飯で作った熱々の塩むすびです。
お米と日本酒を合わせるのに抵抗がある人もいるかもしれませんが、塩むすびというのは意外と日本酒と良く合います。
今回はお酒ともお米とも相性の良い干し肉もあるので、塩むすびと干し肉、干し肉と日本酒、そして日本酒と塩むすび、三組それぞれの相性の良さが相まってさらに良い循環を引き起こします。

塩と胡椒だけという干し肉のシンプルな味付けが、よりこの相性の良さを際立たせているのかもしれません。
さて、とういうわけで今回はジブリ飯”サンの干し肉”を作ってみました。
作るのに時間はかかりますが、作業自体は特に難しいこともなく、一つ一つの工程を丁寧に進めていけば自分の手で美味しい干し肉が作れます。完成した干し肉はとても美味しく、十分労力に見合うものだと実感できると思います。

お酒と塩むすびとの衣装の良さも是非試してもらいたいと思います。
関連記事
>>「ジブリ飯」『もののけ姫』 “ジコ坊の特製鉄釜粥”作ってみた!!
![]()
