『ゴールデンカムイ』の”エゾシカ肉のライスカレー”とは
“エゾシカ肉のライスカレー”とは野田マサルによる漫画作品『ゴールデンカムイ』に登場する料理の一つ。
『ゴールデンカムイ』は日露戦争後の北海道を舞台とした”アイヌの金塊”の争奪にまつわるサバイバルバトル漫画。日露戦争の帰還兵である杉元佐一とアイヌの少女アシㇼパとが、”アイヌの金塊”の手がかりである24人の囚人の体に彫られた「刺青人皮」を集め、軍部の将校や囚人の親玉との争奪戦を繰り広げる。
作品中では、アイヌ文化、料理が緻密な調査のもと、細かく丁寧に描かれている。バトル漫画ながら、作中に多くのアイヌ料理やマタギ料理が描かれており、その野生的で魅力的な料理の数々からバトル漫画ながらグルメ要素の強い異色のとなっている。バトル展開に負けず劣らず人気を博している。
“エゾシカ肉のライスカレー”は『ゴールデンカムイ』6巻 第30話「言い伝え」に登場する料理である。
”エゾシカ肉のライスカレー”はどういう料理か
作中に登場する他の諸料理とは逆に読者にとっては馴染み深く、一方でアイヌの少女アシㇼパにとっては初めて見る料理。名前の通りエゾシカの肉を使って作られたカレー。
作中では、その見た目から”オソマ……”と拒否感(オソマの意味は各自ご確認ください)を示すアシㇼパに対し「食べてもいいオソマ」と紹介されている。
『ゴールデンカムイ』の舞台となるのは明治40年頃の明治末期で、カレーは明治の初期に日本に渡来したと言われている。当時のレシピは現在のものとは異なる。
『ゴールデンカムイ』の”エゾシカ肉のライスカレー”を北欧圏で再現する。
明治時代のカレーのレシピ
明治時代にイギリスから日本に入ってきたカレーであるが、当時のカレーのレシピは現代のものと少し異なる。明治、大正時代ののカレーのレシピは当時発行されていた いくつかの書籍、雑誌などで紹介されており、実は現在でもいくつか残っている。
明治5年に日本で初めてのカレーレシピが掲載された『西洋料理通』および『西洋料理指南』を初め、明治29年発行の『日用西洋料理法』、さらには明治36年に出版された村井弦斎の小説『食道楽』にも詳細なカレーのレシピが記されている。
現在、カレーといえば最も重要な食材の一つとして玉ねぎが挙げられるというのは誰もが認めることだろう。しかし明治初期のレシピでは玉ねぎの代わりに葱が使われているのである。その他にも人参やじゃがいもが使われなかったり、当時の食材の流通事情も関係して現在のカレーとは少し異なった物だったのである。
ただし、明治末期の小説『食道楽』の中では、当時すでに日本でも玉ねぎの栽培が定着し始めていたこともあってか、材料として玉ねぎが記されている他、現代のカレーに幾分か近いものになっている。
“エゾシカ肉のライスカレー”の材料集め
さて、学生時代を古の都 京都で謳歌した筆者としては”鹿肉のカレー”というのはひどく聞き馴染みのある物である。と言うのも、百万遍の界隈に本拠地を構える かの由緒正しき国立大学には「総長カレー」なるものがあり、何代も前の総長である尾池某先生の好みに合わせ作られたというこれまた由緒あるカレーなのである。実はこの「総長カレー」ともに、いっとき大学生協の棚の一角を占めていたのが「鹿肉カレー」なのである。
閑話休題。
今回再現したい料理は”エゾジカ肉のライスカレー”だが、筆者は北海道どころか日本からも離れた北欧の地に住んでいる。となると”エゾジカ肉”を手に入れるのは非常に難しい(そもそも日本国内でもエゾジカ肉が手に入るのかは知らないのだが)。
北欧圏では季節になれば狩猟も行われ、ジビエ肉は日本に比べても非常に身近な食材として親しまれている。エゾジカに近いものとしてはトナカイ肉が手に入るので、今回はそれを使って、物語の舞台である明治時代のレシピを参考に『ゴールデンカムイ』の”エゾシカ肉のライスカレー”の再現を試みようと思う。
今回は出汁のことも考え、スーパーで購入できる骨付きのスープ用ぶつ切り肉を使って行くことにしよう。
エゾジカ肉のライスカレーを作る
今回使う材料は、こちら。
現代のカレーレシピが多種多様なように、明治時代のカレーレシピもそれぞれに違いがある。さらに一つのレシピの中でも、複数の材料(例えば牛肉、豚肉、鶏肉、カエル肉、魚…などなど)を許容している。全く時代にとらわれないカレーというもの懐の広さを感じて感慨深くならずにはおれない。
ということで、今回は決まった一つのレシピにこだわることなく、いくつかのレシピを参考、統合して作っていくことにした。個人的に譲れなかったのが玉ねぎではなく葱を使うこと。
とはいえ、こちらで手に入る葱といえば リーキ(ポロ葱)くらいのものなので、日本の葱とはまた味わいが異なってしまうのではあるが…。
カレー粉には基本的なスパイスであるクミン、コリアンダー、カルダモン、ターメリック、チリペッパーを使う。明治時代には西洋食品店なるものがあり、そこでカレー粉が手に入ったのだそうである。
食材はしっかりと炒めて、丁寧に調理する。スパイスも加えてじっくり炒める火を入れるが、焦がさないようにだけは細心の注意を払わなくてはならないのである。かといって、炒め方が足りないと、色味がつかず深い色合いのカレーには仕上がらないので、全くもって難しいことである。
そしてカレーといえばやはり”一晩寝かせて味をなじませる”ことを忘れてはならない。じっくりと数時間煮込んだ後、すぐにでも味をみてみたい衝動を抑えて、火から下ろした状態で一晩寝かせる。
そして、翌日 水を多少加えて、焦がさないように中火以下の強さの火加減で仕上げの煮込みを行う。煮込むほどにおいしくなりそうな気もするのだが、それではカレーが喉を通る瞬間は永遠に訪れない。適当なところで折り合いをつけていただくことにする。
ところで、参考にした明治時代のレシピでじゃがいもが入っているものはなかったのだが、『ゴールデンカムイ』作中の描写ではどうやらじゃがいもらしきものが確認できるので、とりあえずじゃがいもも加えておくことにする。
『ゴールデンカムイ』の”エゾジカ肉のライスカレー”を再現した感想
さて、鹿肉(今回使ったのはトナカイ肉だが)を使ってジビエ肉を使ったカレーとなると ある程度風味にクセがあるのではないかと懸念していた。
しかし、そこはさすがはカレー。複数のスパイスが幾重にも折り重なってジビエ肉特有の野生的な風味を、見事に旨みに昇華していた(元々トナカイにくはそれほど臭みがつよいいわけでもないが)。トナカイ肉は脂身も少ないので、全体にあっさりとしてくどさのない食べやすいカレーに仕上がってたように思う。”明治時代風カレー”ということで、玉ねぎではなく葱を使ったわけだが、このこともどことなくさっぱりとした味わいの一因だったのかもしれない。
普通の食べ慣れたカレー(豚肉や牛肉のもの)で葱を玉ねぎの代わりに使ったことはないので、葱を使った場合に玉ねぎを使ったものとどの程度の違いが出るかは、実際のところわからないのだが…(せっかくなので別の機会に試してみる事にしよう)。
ところで、私の世代ではカレーといえば”カレーライス”のことで、すでに”ライスカレー”という言い方は馴染みが薄いのだが、そもそもは提供される時点ですでにライスの上にカレーがかかっている庶民的なものを”ライスカレー”と呼び、一方で現在 我々が聞き馴染みある”カレーライス”はカレーとライスがバラバラに提供される”高級”なものを意味していたらしい。
作中の描写にもあるように、ライスカレーと言えば水を入れたグラスにスプーンを浸した状態で提供されるイメージがある(自分自身が実際にそのように提供された経験はないのだが)。決して行儀が良いとは言えないのだが、なんだか味がある。少し行儀が悪いくらいが”大衆感”を醸し出しているのだろうか。昭和の頃は誰もがライスカレーを食べる前に、スプーンを水につけるという”儀式”を当たり前のように行なっていたという。誰が始めたのか、なんのためにしていたのか、今となって判然とはしないが、こういった決まり事というのもなかなかいいものである。
『ゴールデンカムイ』の”エゾジカ肉のライスカレー”の詳しいレシピ
それでは”エゾジカ肉のライスカレー”の詳しい再現レシピをまとめておこう。
*詳細レシピは”自由課金”としておりますので無料で見ることができますが、レシピが気に入ればお好きな値段をご支援いいただければ嬉しく思います。